2011年03月04日

愛する人/MOTHER AND CHILD

 もしかして、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥはロドリゴ・ガルシアとギジェルモ・アリアガに同じ題材で競作させたんじゃないか。
 そう思いたくなるほどこの映画、『あの日、欲望の大地で』と基本設定が同じ。
 でもそれ故に二人の違いが際立って感じますが(あたしはサスペンスフルな『あの日、欲望の大地で』のほうが好きだなぁ)。

 母を自宅で介護しながら、まさに「母親の世話のために生きてきた」カレン(アネット・ベニング)は介護と仕事に明け暮れるだけの日々を送っていた。 しかし彼女は14歳のときに出産した過去を持ち、その手放した娘のことを片時も忘れることができない。

  愛する人5.jpg 誰にも心を許さない、凍った心。

 一方、弁護士のエリザベス(ナオミ・ワッツ)は仕事では有能さを見せながらも誰かと精神的に深い関係を築くことができず、自分のエリアに踏み込まれそうな危険を感じるとすぐその事務所を辞め、別の事務所で働く。 様々な土地を渡り歩きながらも、必ずしばらくするとLAに戻ってくる。 生まれてすぐ養子に出されたのがこの街だから、母親が自分を探すとすればこの街だから。
 うわー、改めてこうやって書くと、重いわ。
 カレンもエリザベスも、最初から満たされていない不幸の風情。
 カレンは職業も介護士なのだが、仕事に行っている間に家のことを頼んでいるヘルパーの女性が子供を連れてきていることを知ると事情も聞かず激怒。 自分の母親がその子供と楽しそうにしているところを見て深く傷つく。 常にピリピリしていて余裕がなく、仕事仲間とも言葉遣いに過敏に反応してしまうため心から打ち解けられない。 カレンを気にかける新任の同僚の男性からのアプローチにも自意識過剰な思春期ばりの返事しかできない自分に落ち込んだりする。
 エリザベスは隣家の新婚夫婦、特に妻の無邪気さが癇に障り、その夫を誘惑するという行動に出る。 あまりに手慣れた様子から、こういうことをずっと繰り返してきてるんだろうなぁ、とわかる。 あまりに、あまりにわかりやすすぎる人物造型ではないでしょうか。 しかしそこはアネット・ベニングとナオミ・ワッツなのでしっかりリアリティを表現してくれてます。
 この二人を中心に、様々な“母親と子供(特に娘)”の関係がタペストリーのように織りあげられていく。 だから、「誰かに感情移入できますよ」という親切設計でもあるのかも(しかしあたしはいなかったよ・・・)。
 女ってなんでこんなに家族とか人とのふれあいに心を砕かねばならないのか、そんな疑問もわいてくる。 それはすなわち“子供を産む性だから”。
 それがすべてのやっかいごとの原因な気がする・・・とあたしは思った。
 監督のロドリゴ・ガルシアはあのガルシア・マルケスの孫だそうで・・・全然知らなかったよ。 でもそういう七光り的なもので出てきた人なのだろうか。  知らないって先入観がなくていいですね。
 ただ残念なことに、若干紋切り型の男女像が物語を「よくある感じ」にしているような気がしないでもなく。 女性を中心に描いたためか、男性は結果的に自分勝手かもしくは絶対的に女性を支える存在としてしか出てきていないような。
 デヴィッド・モースのいきなりの登場(しかもあんな役で・・・)にはびっくり。 何故そんなダメ男で・・・。

  愛する人6.jpg 自分では子供が産めないと受け入れた女性は養子をもらうことになるが・・・土壇場で「自分と血の繋がった子供がほしい」と言いだすのは男。 女には、もう母になる気になってしまった女にはそんな理屈は通じない。 そうなったら切り捨てられるのは男のほうである。

 ただ、“母性は強い”、という幻想を助長する場面には「ちょっとそれは・・・」となる(育児ノイローゼ寸前の女性に「あなたは母親なんだからしっかりしなさいよ」と一喝、女性は目が覚めたような顔をする、とか。 実際はそんな簡単にいくものじゃないわよ〜。 そのあたりのケアもちゃんと描いてほしかった)。
 そして「子供は希望である」というまとめは・・・そうなんだけどさぁ、それ以外ないのかよ、と思ってしまうのだった。

  愛する人4.jpg 結局のところ、子供よりも親のほうが生きるのは楽なのでは? 忘れていなくても、忘れたふりはできる。 自分の選択や決心に、理由をつけることができる。 けれどそれを知らされることのない子供は・・・どうしたらいいのか。

 まぁ、あえて淡々と描き過剰に泣かせない方向というのは好ましいし、ノーメイク?なアネット・ベニングは顔のしわもシミもアップでさらし、けれど徐々に表情豊かな女性になっていく姿を堅実に演じており、賞には恵まれないが年齢に負けないいい女優さんだなぁ、と思う。 それに比べるとナオミ・ワッツはちょっと損な役回りではあるけれど、冷たさを感じさせる美貌がぴったりの役でもあったし、ずるい人かと思いきや実はいい人だったサミュエル・L・ジャクソンもかっこよかった(しかし大人すぎるというか・・・最終的に相手に理解を示しすぎるのはエリザベスのためによかったのかなぁという疑問は残る)。

  愛する人3.jpg この関係がうまくいってたら・・・彼女は救われたかもしれないけれど、でもその手を振り払ったのもまた彼女の生き方だ。

 そう、この映画を触媒に、いろいろなことを考えさせられる(それがある意味「いい映画」なのかもなと思う)。
 自分は何故生まれたのか? ・・・知らない、そんなこと。
 何故生きるのか? ・・・生まれちゃったから、仕方なく。
 「最高の復讐は、自分が幸せになること」、だとよく言われる。
 けれど、幸福を知らない人間は一体どうしたら人生最高の復讐ができるのか。
 それでも、妊婦のおなかをさわりながら「人の中に人がいるのね!」と素直に感嘆できる少女の素直さを、あたしは美しいと思いました。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 02:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする