2011年01月15日

デザート・フラワー/DESERT FLOWER

 アフリカ遊牧民出身の女性が、金で結婚されられることを知って一族を飛び出し、流転の末に人との出会いや幸運をつかみ取り、世界的トップモデルになった・・・という話なのかと思っていたら、とてつもなく痛い目に遭う映画でした。

  デザートフラワー1.jpg 砂漠に咲く花

 いや、大まかな筋はその通りです。 ワリスはソマリアで暮らしていたが13歳のとき出奔、一歩間違えば死にかねない砂漠を歩いてどうにか親戚の家に辿り着く。 そのつてでソマリア大使館のメイドの仕事をもらいロンドンへ渡るが、母国で政変が起こって大使館の人間には引き上げ命令が。
 国に戻りたくないワリスは、路上生活を始めることに(この時点で彼女は“政治難民”なのだが本人にはそんな認識もなし)。
 そんな中、トップショップで働くマリリン(サリー・ホーキンス)とちょっとしたことで知り合い、英語もおぼつかないワリス(リヤ・ケベデ)だがなんとなくルームメイトに(このあたり、もうちょっと丁寧に描いてほしかった。 マリリンの自己防衛のための自分勝手キャラがワリスとの付き合いによって変わっていくのもよかったなぁ)。
 彼女の紹介でバーガーショップに職を得たワリスの横顔に注目したのは、世界的なファッションカメラマンのドナルドソンだった。
 しかしワリスはそう簡単にスカウトの話には乗らず、マリリンや同じアパートに住む人々との交流を描くほうを先にする。 そしてワリスの“シャワーは共同だけど裸は絶対見せない”・“お手洗いの時間がいつも長い”・“急な激痛に苦しむ”、という描写が入ることで「あっちの話か・・・」とちょっと青ざめる。 なるほど、予告編にはそのあたり一切入れなかったね・・・(これは先入観を持ってほしくないということなのか、明らかなサクセスストーリーと思わせたほうが客が入るからなのかどっちなんだろう?)。
 これはFGM(女性性器切除)を3歳で受けさせられた女性が、苦しみながら故郷の因習を自ら解き放ち、自分の足で立ち上がってこんな習慣をやめさせたいと生きることを決めた女性の物語なのである。

  デザートフラワー2.jpg これまで履いたことのないハイヒールを練習し、綺麗に歩けるようになったときの笑顔!
 あぁ、とあたしは思った。 彼女は自分が女性であることを呪いだと感じている。
 あたしにもその傾向はあるので(勿論彼女ほどの苦難を受けてはいないのだが)その気持ちがすごくよくわかった。
 FGMについての予備知識があればかなりわかりやすいが(それでもショッキングであることに変わりはない。 そんないつのかわからない錆びた剃刀で! 枝の棘を針にして縫うのか?!、など文字で読んだことがあっても映像でリアルに見てしまうと顔面蒼白である)、まったく知らない人は立ち直れないほど痛めつけられること必至。
 世界的にFGMの弊害が知られても、現地でも『母たちの村』のような意識改革が起こり始めていても、それでもまだ今でも女性たちは切除され続けている(アフリカからフランスやオランダに移民として渡った人々の中でも続けられているのがまず問題なのだが)。
 衛生面の問題でこれまで何人も死んでいるのに何故やめないのか。
 女性への人権侵害であるのと同時にもしくはそれ以上に、故意じゃない殺人罪だぞ!(しかしこれを声高に非難すると、「固有の文化だ」と返されて逆に「クジラをとる野蛮ニッポン」と言われてしまうのだろうか・・・次元が違うと思うんだけどなぁ)
 この映画の中でも、激痛に苦しみ病院に運ばれたワリスにソマリア人男性看護師が通訳として連れてこられるが、イギリス人医師の言葉はまったく伝えず「白人男の前で股を見せたのか。 民族の誇りを何だと思ってる」と罵倒する始末。
 あたしはこの看護師をうしろから思い切りかかと落とししたくなった!
 現代社会の中に身を置いてさえ(おまけに医学を修めているのに!)、自分たちの国の慣習を野蛮だと意識できないとは・・・。
 けれど彼女は手術を決意する(切除された部分は再生できないが、日常生活を普通に送れるようにはなるから)。 その決断が、彼女のモデル人生のスタートとなるのだ。

  デザートフラワー5.jpg オーディション控室にて。
 モデル同士のバトルとか、ファッション業界のどたばたとかはほとんど出てこないので(モデルエージェント役の方がいかにもで笑わせていただきました)、モデルとしてのサクセスストーリーとしてはちょっと物足りない感じがしてしまい、女性運動家の誕生としては最後のほうが駆け足になっちゃったかなという気がするし、映画としての完成度は損なわれたかも。 けれどアフリカの荒廃した大地と民族衣装の鮮やかな色の対比、普段のシャイなワリスとランウェイに立つ別人のようなワリス、そのコントラストが素晴らしく、もっと見ていたいなぁと思わせられた。

  デザートフラワー4.jpg が、この美しさも生死と引き換え。
 エンドロール、文字の流れが終わっても真っ暗な画面の中しばらく音楽は流れ続ける。
 その間に観客に考えてほしい、という監督のアイディアだと思うのだけれど空間恐怖症(空白があるとなんか埋めたくなる)の気のあるあたしはなんか落ち着かない。
 アフリカの様々な光景やランウェイを歩く実際のワリス・ディリーの映像を流したらよかったんじゃないのかな。 というかそれが見たかった。
 いろいろ問題のあるファッション業界ですが、極貧の地域や家庭からたまに売れっ子モデルが出現します。 それがきっかけになって問題意識が広がるならいいことなのではないだろうか(それ以上に健康被害やクスリ漬けになるモデルの問題のほうが大きいかもしれませんが)。
 ハイファッションを利用するのは富裕層ではあるのだけれど、そのための体型維持の苦労とか「モデルはただ立っているか歩いていていればいい」みたいな認識の人からの偏見とかもまだまだ多い世の中ですが(楽な仕事など存在しません)、どう生きるかはやはり自分次第なのだと教えてくれる、強いメッセージがこもってます。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 01:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする