実話物に弱いあたし、特に現代史となると「是非!」ととびつくのはほんとによく知らないので、とっかかりとなるきっかけがほしいから。 あー、『バーダー・マインホフ』なんで上映中止になったんだろうか・・・早くWOWOWやって〜。
20世紀最大のスパイ事件“フェアウェル事件”だそうですが知らず・・・それがソ連崩壊のきっかけなそうな。 1980年代始め頃の話。
冒頭、凍てついた雪原が映る。 美しさよりも厳しさが先に立つ、それがつまりソビエトそのものであるかのように。
グリゴリエフ大佐(エミール・クストリッツァ)は自分の立場で知りうる機密情報を西側に流すことに決め、あるフランス人エンジニア・ピエール(ギョーム・カネ)を連絡役として狙いを定める。 何故KGB幹部がスパイとなって祖国を裏切るのか? それは国を愛するが故、息子をはじめとした若者たちに自分の生まれた国で自由を感じてほしいからだった(大佐はフランス側から再三「亡命すべきだ」と乞われているがいつも断っていた)。
エミール・クストリッツァって、『ウェディングベルを鳴らせ!』とかの監督ですよね・・・役者もやってたんですか、それとも今回くどき落とされたんですか?
しかしそれも納得の風貌。 もう見た目で説得力抜群! はじめのほうは「もしかして、ちょっと棒読み?」と危惧しましたがどうしてどうして、繊細な演技を次々繰り出して最後まで! かっこよすぎだ!
が、映画のほうは残念ながら大佐の存在感にのっかりすぎというか、主役が彼じゃなかったらここまで見られるものだったかどうか心配になる出来というか・・・かなしいかな、「なんか普通」でした。 重厚なつくりではあるんですけどね。
もったいないな・・・ここまでの題材なのに(でも彼を主役に据えたことに価値があるからいいのか)。 ギョーム・カネってこんなんだっけ?、とピエールのどんくささ振りにイライラさせられましたがもともと素人なのだから仕方ないんだけど、それでも海外赴任先がよりにもよってソ連だということにもうちょっと緊張感を持ってほしい、と思った(後半、持たざるを得なくなりますが)。
が、大佐とピエールの立場を超えた友情、大佐と息子との関係という二点に絞れば非常にいいシーンあり! ただ女性が誰ひとり役立たずだってのがかなしい・・・。
息子がほしがってたのがウォークマンでクイーンを聴く、というのが時代です。 ちなみに息子がしてる時計はGショックっぽかったんだけど・・・あの頃から海外物ありだったの? 日本製品は共産圏の憧れだったのか。
ほんのちょっとしか描かれないけど、世界に散らばる“名もなきスパイたち”の最期もまた悲しい・・・スパイとはそういうものということか。
ただ・・・80年代って今に比べたら平和だったよなぁ、って思ってたんだけど、冷戦時代まっただ中で実は全然平和じゃなかったんですね・・・(あたしがただ子供で何も知らなかっただけだということでした)。 そしてこの映画から受ける印象ではレーガンはなんだかイヤな奴だし(スターウォーズ計画ってハッタリだったのかい!)、ミッテランはどうも姑息だし、ゴルバチョフはちょっと臆病。 勿論それは一面的なものだとわかっているけど、そういう時代の人々もこうやって映画の中で語られるようになってきたということに時間の流れを感じますなぁ。
ただ、その時代を生きる普通の人々(たとえばピエールの妻とか)にはやはりそんな危機感はなく、それはいつの時代にも共通してしまう感覚なんだろうなぁ。
それに当時のソ連内部はそれなりに平穏というか(ちょっと逸脱しているような者はすぐに排除される雰囲気はあるが)、理想の実践を信じていたみたいだし。
だがソ連の科学技術は自国開発のためにかかる時間と資金を節約するため、世界各国にスパイ情報網をつくり、そこから得たものを利用してるだけにすぎない。
このままではソ連の基礎化学など張り子の虎、この先の国家の発展など望めないというのが大佐の「裏切り」の動機でしたが・・・なんかそんな国、今もあるのでは。
内部から良心が目覚めるだけ、ソ連はまだましなのでは?(だがその後のロシアはそんな先人の勇気と努力を活かしているのか−日本も人のこと言えないけど)
ふと、思う。 北朝鮮や中国もいつかこういう形で崩壊するのだろうか。
そしてあたしはそれを目撃することができるだろうか。
結局一人で貧乏籤をひかされる(もしくは責任を押しつけられる)大佐の生き方は、それでもやっぱり祖国にとっては裏切り者なのだろうか。
かなしい、とても、かなしい。
上映後「よくわからなかったよ」と言っている観客がいて、どうやら入り乱れる組織名と誰がどこの所属なのかがわかりにくかったらしい。 え、あたしはまったく問題なしでしたが・・・それもこれも、長年『エロイカより愛をこめて』の愛読者であるおかげです。